書評:『農業が日本を救う』

財部誠一(PHP、2008年)

そんなに前向きな内容ではないので刺激的なタイトルとのギャップが気になる読後感。現在の日本農業の構造的な課題をまとめた本としては優れている。農業センサスなどのデータに裏打ちされた分析も納得できる。特に米の消費低下にも関わらず米中心主義を続けた農政への批判が素晴らしい(p.76)。ただ和郷園やNISHIYAMAなどの個別の成功事例を持ち出すだけで、普遍的な解決策の提示には至らない。成功例の共通点は「消費者をみる」というくらい。確かにそんなに簡単な解決策があるならこれほど日本農業が疲弊することもなかったと言うことだろう。以下、特に優れていると思った箇所を抜粋した。農業に関わり始めた身として非常に共感できる。

評価(5段階、5が最高):4
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農業は素人が考えるほど簡単ではない。簡単ではないどころか、非常に難しい。私自身の反省も込めて言うのだが、日本人は農業についてあまりにも無知だ。工場で高度な生産管理をするノウハウがあれば、テレビやクルマと同じようにトマトやジャガイモを整然と生産できるのではないかとイメージしてしまうが、そんなことはありえない。工業製品の生産ラインと自然相手の農業の現場とは似ても似つかぬ別次元の世界なのだが、それがわからない。土を使わない水耕栽培をハウスの中で展開すれば、限りなく工場の生産ラインに近づくのではないかと思うかもしれないが、それも違う。水耕栽培でも病気や害虫でハウス全体が全滅することなど、珍しくない。農業と通常の企業活動とは水と油ほどに違う。生産計画、販売計画が成り立たない事業に、企業はおいそれとは乗り出せないのだ。もちろん、なかにはカゴメのトマト栽培のように、事業として成り立つところまで辿り着きつつある事例もあるにはある(長友注:カゴメの2011年3月期決算説明会資料によれば、開始から12年かけてようやく赤字脱却が見えてきたそうです)。だが、大企業に農業参入を促しさえすれば農業が抱える問題が劇的に解消されるなどと考えるのは、幻想以外のなにものでもない。(p.17-18)

日本の農業再生に一番欠落しているものは、生産者が十分な収入を得て、農業を持続可能なビジネスになるよう、産地と消費者を結ぶ流通業者がきわめて少ないことだ。(p.42-43)

日本の農業の問題は、販作分離ができていないことです。農協が生産から販売まで関わってくるものだから、何をやっても中途半端になる。生産は生産のプロ、販売は販売のプロがやる。これが農業の鉄則です。(p.65)

生産から流通に至る農業のすべてのプロセスを「官」が管理している国など存在しないということだ。普通の日本人が普通に信じている日本の農業の仕組みは、じつは”異様”なのだということを、日本人は知らなければいけない。(p.121)

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